「●●で知能は測れない」はどこに向かうのか。

 現状を雑にまとめると、

 実体>知能(概念)>CHC理論>ウェクスラー>下位検査

と言える。

 下位検査は特定の能力を測定するもの。その集合がウェクスラーのような統合型知能検査だが、もちろん全てを網羅しているわけではない。

 更に上位概念として「知能とは」という分野で一般的に支持されているCHC理論があり、ウェクスラーも準拠しているらしく、そのうち大凡5/9を測定している。

 言うまでもなくCHC理論がヒトの知能の全てを説明しつくしているわけではないので、知能全体から見れば一部に過ぎない。

 そこで、下位検査の代表例として行列推理を挙げると、古くから(笑)「行列推理だけでは知能は測れない」という反論(?)が存在する。例えばジャパン・メンサの入会試験についてとか。

 もっともな気もしなくもないが、そうでもない。

 行列推理は最も現代的な(かつ言語能力=教育水準を問わない)検査項目として普及している(といっても20年くらい前?)のには理由があり、知能全体に大きく関わってくる一般知能因子(g因子)との相関が高いと言われているので、“コアな能力”と考えていい。少なくともこの20年くらいは。

 よって「行列推理だけではヒトの知能は測定できない」は真であっても、同時に「行列推理が低い場合は多分知能は高くない」も真である可能性が高いということ。≒現時点で行列推理は合理的に妥当な選択肢かもしれないと言える。

 要は全体の構成要素のうち代表的なものが低ければ全体の性能に大きく影響を及ぼすという話。

 例えば車なら「エンジンの性能だけでその車の性能の全ては測定できない」は真だが、エンジンがショボいと他の全てが素晴らしかったとしても、せいぜい60-70点くらいしか採れないだろう。

 パソコンで言えばCPUがショボければ演算できる理論上の最大値が先に決まる。

 現代人にとって古典的な5教科よりもプログラミングを含めたITスキルの方が重要だと言っても、国語が弱いと読解力の問題で仕様書やマニュアルの理解度が下がるし、どんなに難問回避しても中学〜高校程度の数学力は要求されるから、5教科を捨ててITに行けば良いわけではない。

 と言う具合に、社会や日常生活、仕事全般に関わる基礎的な能力というものが存在する。

 私が以前から言っている「最初の上位2%が、ルールを変えても常に上位2%になる」可能性が高いことの根拠でもある。

 だから私は知能のブログを書き始めた当初から行列推理を否定しない。かといってソレだけを追求してみたりもしない。行列推理の能力だけが高くてもしょうがないが、低くて良い理由にはならないから。

 では下位検査の集合体であるウェクスラー知能検査に目を向けてみよう。上位概念として存在するCHC理論から見れば「5/9しか満たしていない」ことをもってして「ウェクスラーではヒトの知能の全ては測定できない」は真だが、この5/9が低ければ残りの4/9が全部高くても半分に満たない。

 ということを無視すべきでない。

 同じように、ウェクスラーのような統合型知能検査がCHC理論の全てを満たすようになったとしても、CHC理論自体がヒトの知能の全てを解き明かしているわけではないので、「CHC理論(に完全準拠した検査)ではヒトの知能の全ては測定できない」は真であり、同時に「CHC理論の検査内容が低い場合、多分知能は高くない」も真である可能性が高いと言える。

 もちろん、CHC理論自体が全くの的外れな理屈だったということになれば話は別だが、それでもCHC理論全体に渡って低かった人が、賢く優秀である可能性はないに等しいだろう。そこは統計で補える。

 ということから、今ある検査項目はとりあえず全部高いにこしたことはない。例えば全体が100で、ウェクスラーは15でしかなかったとしても、1/100より15/100の方がいいのは考えるまでもないので、「全ては測定できない」と主張すること自体に方向性を見いだせない。私は。

 例えば東京の全てを知っている人がいて、「それだけでは日本を知っているとは言えない」と反論されても、少なくとも首都東京を知っていれば極めて重要なポイントは抑えていると言えるし、日本の全てを知っている人がいて、「それだけではアジアを知っているとは言えない」と反論されても、一応アジアで唯一のG7国を知っていればアジアの重要なポイントは抑えていると言える。

 同じように、アジアよりも世界、世界よりも地球そのもの、地球よりも太陽系、太陽系よりも銀河系と言い出せばキリがなく、結局は目の前にあるものは全てクリアしたのかということに落ち着く。

 最終的には入力の全て(現在の視覚・聴覚に加えて嗅覚、味覚、触覚)や出力(喋るとか表現するとか運動神経とか)なども測定することになるだろうと考えれば、現時点でこれら全てを満たしていれば知能が高い可能性が高いと言え、どっちにしても低い方がいいわけじゃない。

 能力が拮抗したときには美貌もセンスも教養も家柄も兼ね備えている方が明らかに有利だし、お金を持っていれば他人の支配・管理下に置かれることもなく自由度が高まる。

 全部持ってるのがイチバンなことは誰にでもわかっていることだが、ソレを言ってもしょうがないので現時点で合理的(=費用なども考慮して)に測定できる範囲を絞るのが現実的な仕事

 そこの落としどころの理解力が現実的な賢さと言えるんじゃなかろうか。

 CHC理論について詳細に解説されている記事があったので紹介したい(リンクで済ませたい(笑))。