食事とエルメスの関係。

 エルメスに限らずファッション全般に言えることなんだが、話の最後にエルメスが出てくるのでヒマな時にでも。

 私にとって、食事とバーキン(或いはケリー)はどっちが優先度が高いかというと当然食事であり、食事とエルメス、食事とハイブランド、食事とファッションとカテゴリを拡げていっても食事が優先される。

 生き物だから当たり前。お洒落な服やバッグがなくとも生きていけるが食事は必須。

 で、その食事をどこでとるかで必要なファッションが決まる。

 自宅ならパジャマという人もいるかもしれない。

 レストランならお洒落してという人がほとんどだろう。

 いわゆるTPO。

 ※以下、上着を着る男性ファッションを前提に書いているので、女性はピンとこないかもしれない。

 で、例えばサンローランのようにこれでもかというほどスリムに作られたコートを試着するといつも思う。上着(ジャケット)の上に着るにはアームホールが小さすぎる。が、本来サンローランが表現したいシルエットを活かすならば、中に上着を着るために1つ上のサイズを選ぶべきじゃない。ブランドにはポリシーやスタイルがありそれを尊重する。

 スタッフに「どうやって着るんですか」と尋ねると、断言はしないんだが上着なしで着る前提なんだなと伝わってくる。

 じゃぁせっかく買った美しいシルエットのコートを着てお出かけし、フレンチで食事という場合、コートを脱いだ後どうする。

 上着を別途持ち歩くのか。

 銀座で買い物中ばったり知人と会って「この後食事でもどう?」という話になった時どうするのか。上着が要らないレベルの店に入るのか。

 それにしちゃコートが高すぎないか。私から見るとそれじゃ食事処とコートの価格のバランスが取れない。ユニクロ勢と並んで食べるのか。

 と、再びスタッフに問うてみるんだが、誰もその答えを持っていない。

 しょうがない。販売員は普段そういう生活をしていないし、その値段のコートを買うこともなく、多分考えたこともない。

 その点バーバリーのように男性が上着の上に着るトレンチコートを長年作ってきたブランドはソレを踏まえた作り。

 サンローランのようなモードなブランドにマナーとか文化を求めるもんじゃないのは確か。新しいことに意味があるのだから。

 ロックミュージシャンに「その革パンにネクタイは合うのか」と問いかけるようなものだろう(笑)。スーツ組は引っ込んでろ的な。

 という具合に、そのブランドのスタイルがある。

 が、私の中では一件落着と言えない大きな問題があり、男性がフランスのブランドであるサンローランのコートを着たらフレンチには入れないのかという点(笑)。

 「男性はジャケット着用を」なんて言わない店でパスタでも食べるしかないのか。イタリアブランドならそれでイイんだが、イタリアンも高級店になると「ジャケット着用」の表記が多い。

 シャンゼリゼのテラス席でコート着たままシャンパンでも飲みポージングする人達向けか。自撮りしようにも腕が伸びないだろう(笑)。

 ※サンローランのスタッフ用の制服もアームホールが極めて細く、数年前女性スタッフに「腕伸ばすの大変じゃないですか?」と尋ねたところ、「腕が全く前に出ません!(笑)」と返ってきた(笑)。高い位置にある商品を取るなんて無理らしく、そのうちゴムのように伸び伸び≒全身ストッキング状態になるんじゃないかと話したことがある。折れそうなくらい細い女性だったが。あのジャケットじゃフォークとナイフを持つのも大変だろう(笑)。コートだけの問題じゃない。

 すなわち立ってる時、歩いてる時だけ勝負のファッションもある。それはそれで贅沢な存在だが私の生活には合わない。

 以前、お酒を知ることでフランスのファッションが見えてくるということを書いた。

 同様にフランスの食事文化を知ることで、フランスのファッションが見えてくる。

 で、エルメスの話をすると、エルメスはお堅い。少なくともモードじゃない。ということは文化とか伝統との結びつきが強い。

 「バーキン(やケリー)を買ったから高級なレストランに行く」は、見方を変えると「バーキンが買えないなら高級なレストランには行かないのか」となり、「バーキンの出番」が頂点に立っているので、私から見ればバーキンが相応しい生活水準とは言えない(だからバッグは出ないと予想)。結局のところバーキンに持ち主が付いていっている(バーキンがあればどこに行く)状態だから。

 エルメス側から見ればこれは「バーキン目当ての買い物」でしかない。と言えばどういう印象か伝わるだろうか。

 数ヶ月前、あるサービス業の女性スタッフから、この1年で1千万円ほどエルメスブティック(1店舗)で買い物したのに未だバーキンもケリーも1度も出てこないという男性の話を聞いた。

 その客は男性医師で、奥さん(か彼女)にバーキンをプレゼントしたいらしい。

 かれこれ2-3年メンズと婦人服でせっせと購入実績を積み上げていて、あるときエルメススタッフから男性にスーツを勧められ、「普段ほとんどスーツを着ることがないので(職場では白衣だから)」と断ったそうだが、最近再びスーツを勧められたらしい。

 これを「何でだろう」「何かおかしい」と疑問に思った話し手の女性スタッフから見解を問われた。

 こう言っちゃなんだが、「上着くらい着ろ」ということじゃないか。もちろんエルメスのスタッフはそんなこと客に言えない。

 ※または1,000万円も使っていながら「スーツは着ない」と断ったことを覚えてもらってないか。すなわち影が薄いかアウトオブ何とかか。どっちにしてもキャラがわかる。

 そもそもエルメスに限らずブティックのスタッフは、お洒落じゃない(センスがなく苦手そうな)人には服をすすめてちょっとづつコーディネートを完成させていくものだが(例えるなら真っ白キャンバスに絵を描くようなもの)、お洒落な人には意見を求められない限りすすめない。受け身。という基本原則がある。柄物に柄物を後付けするのが難しいのと同じ理屈。

 そこから推察するとスーツを着てないし「着ない」と言っている男性客に再びスーツを勧める時とは「スーツでも着てみないか」という提案だろう。

 なぜか。

 例えば、17-18時頃に女性連れでエルメスのような高級ブティックで買い物していれば、この後ディナーかなと誰もが想像する。女性は当然にとびっきりのお出かけファッションなはず。

 そこで男が上着を着ていなければ持ってもない場合、フレンチではないことがほぼ確定する。

 お洒落した女性を上着が要らないレストランに連れていくのかと私なら感じる。その店に150-170万円ものバッグが必要なのか。

 サンローランの話と同じ。ファッションとその背景。

 バーキンはディナー用だとは思わないが(25cmなら何とか)、エルメスでの買い物の後に大衆レストランじゃないだろうことは多くの女性が期待するところ。ましてやエルメスで1,000万円/年も買い物する人が。

 そして大前提としてエルメスはザ・フランスのブランドであり企業だから、食事を含めた「文化」(ひいては民族)という根底にフランスの血が流れている。

 という話をその女性スタッフにしたところ、「そうですよ!ホントそうですよ!絶対そうですよ!」と前のめりになったかと思えば途端に口調が変わり「カジュアルなんですよねー、何か」と返ってきた。

 「一応全部ブランドではあるんですけど」という言い方もどこか「だから何なの」感があり、決してその男性医師のファッションを良いと思っていないことがうかがえる。

 で結局は「バーキンとかケリーを持ってる姿が全然想像できず」「そもそも必要なのかなって」といわゆるぶっちゃけトークが始まった。

 女性とは男性を評価する時に、自分がデートしたい男か(笑)、自分がデートするならどう振る舞って欲しいかで考える人が多く、その男性医師のことを「食事とかに全然お金かけなさそうな人」とか、最終的には「そんな高価なバッグ1個にお金かけるなら、もっと他のところに」「順番がある」と語り出した。

 要は全体のバランスということ。

 言うまでもなく、私と縁がある人は私と似たようなタイプの人だろうことから感覚が一致するんだろう。男性医師の奥さん(か彼女)は別にそんなことはどうでもよく、バーキンさえ手に入ればいいのかもしれない。

 そんなの個人の勝手。

 とはいかず、エルメスはバーキン目当ての買い物を歓迎していない様子なので、少なくとも買い物の仕方自体が気に入られてない可能性が高い(だから枠ありバッグが出ない)んじゃないかと私は思う。

 バーキンさえ手に入れば他は用はない感。出番が少なければ売る可能性が高まる。

※実は奥さん(か彼女)がスーツをすすめるようにエルメススタッフに頼んだ可能性もあるが(笑)。

 生活全般にファッションが根付いてない人(特に男性)に多い。メシなんて腹が膨れりゃそれでイイ的な。じゃ、150万円のバッグをどこに持っていくの的な。

 お洒落したらフレンチ(でディナー)が欧州文化の基本と言ってよく、古典的なフレンチはシャンパンに白ワイン、赤ワイン、チーズタイムにポートワイン、バータイムにコニャックという具合に、3時間も4時間もかけて食事を楽しむ文化。

 だから世界最大のヴィトングループはモエ(シャンパン)からヘネシー(コニャック)まで囲い込んでいる。

と言えば、これは私の個人的な見解に留まらずフランス文化なんだということをイメージしやすいだろうか。

 で、次回以降にバーキン(またはケリー)が“出る”までに必要な額=似合うようになるまでにかかる経費という、衝撃の式(笑)を披露する。

 建設に例えて地盤問題と名付けよう。