前稿の(デパート業界で)高島屋が「イチバン商売をわかっている感じ」とは。
以前『物価から見るエルメスのバーキンの値段。相場観』において、物価上昇率2%/年のペースで物価が上がっていくと、35年後にエルメスのバーキンの定価は約300万円になる(×1.02を35回)、と書いた。極度の円高で相殺されない限り。
これはブランドの付加価値を乗せず、物価の上昇に比例して値上げした場合。
近年物価上昇率が高まっているので、その日はもっと早く訪れる可能性が高い。フランスは直近2年間は5%/年を超えているので、このまま続けば15年後にバーキンの価格は2倍(300万円)になる。
物価上昇に合わせて賃金も上昇している他の先進国は良いとしても、特異的に35年で約2-3割しか物価が上がらなかった日本は感度が落ちているのか賃上げが置き去りになっていて、一般的な日本のサラリーマンは相対的に貧乏になっている。
そのせいか、日本のクレジットカードの一般的な限度額の上限は200-300万円からずっと変わってない。
※「一般的な」とはアメックスのセンチュリオンなど特別なクレジットカードは含まない。
この先起こりうる問題は、欧州の物価上昇ペースが早いため、シャネルやエルメスなどのハイブランドの値上げに対し、日本のクレジットカードの与信枠(限度額)が追いつかず足りなくなるという点。
仮にバーキンが300万円になったら日本のほとんどのクレジットカードで切れないことになる。普段何かしら決済していて、それが引き落とされるまで限度額はフルにはならないから。
カードの与信上限は年収で決まるので、平均所得が上がっていかないと、一般カードの限度額上限が見直されることもないだろうことから、過去20年と同じ推移で進めば、そのうち海外ブランド製品を日本発行のクレジットカードで買えなくなる。
では再び300万円(または一部現金入金で差額相当額)もの現金を持ち歩くことになるのか日本人は。
ということから、偉そうな言い方をすると、いちばん商売をわかっている百貨店はプラチナデビットを出した高島屋なのかなと思う。
これまでのようなクレジットカード会社の与信管理の影響を受る商売では「欲しい商品があるのにカードが切れないからまた今度」という客を増やしてしまうため、早い段階でデビットカードに移行した方が良い。現金払いに戻るべきではないキャッシュレスの時代においては。
高島屋フィナンシャル部門が、日欧の物価上昇率の差異まで計算に入れた上でタカシマヤプラチナデビットを作ったのかと言うと多分違うだろうが、少なくとも直近20-30年を見る限り、結果的に正しい方向性だったと裏付けられるだろうと私は予想している。
一方で再び時代に適応できず地盤沈下していくのが三越かなと思う。エムアイカードは与信が渋すぎることで有名。場合によっては伊勢丹離脱騒動が起きるかもしれない。
他のデパートブティックから三越のブティックに異動になったハイブランドのスタッフらが最初に言うのは、エムアイカードの限度額のショボさの話。客から「エムアイカード使えない」と愚痴られるらしい。フィッシングスパムメールでさえ、エムアイカードだけは「限度額引き上げについて」を装っている程(笑)。その市場観察力に驚くが(笑)。
デパートのポイント(または累計購入額の積み上げ)目当ての客は当然当該デパートカードで決済したいので、限度額が低いと使い物にならない。
客は次の引き落としを待ってから買い物することになり(しかもATM入金もなくなってしまった)、ブティック側にとっては機会損失。エルメス製品やシャネルのココハンドルのように、見かけた時に買わなきゃという商品が増えると、そのうち現場から「クレジットカード会社の与信枠に振り回されないビジネスを」という声が上がり出す。
エムアイカードの場合、カードを提示し現金で払うということもでき、その場合でもポイントも付くし累計購入額に積算されるので何も問題ないようにも見えるが、これではもはやクレジットカードとは呼べずただの会員証に過ぎない。
だったらデビットカード化するのが当たり前の方向性。
更に構造的な問題として、高島屋のクレジットカードは表向き高島屋ファイナンシャルパートナーズの発行だが、バックエンドはセゾンが請け負っている。大丸・松坂屋のJFRカード/三井住友カード、阪急・阪神のペルソナ/三井住友カードという組み方も同じ。一方エムアイカードは三越・伊勢丹の内製であり、ITで言えばクラウドかオンプレミスかの違いがある。だから余計に与信管理に厳しくなりやすい。焦げ付き防止のため。
いずれエムアイカードがお荷物になるだろう可能性を秘めている時に、2017年のタカシマヤプラチナデビットに対抗して、慌てて2018年に年会費がただ高いだけのエムアイカードプラチナを出してしまった三越・伊勢丹は、この世界の動向に疎いことが見て取れる。
※タカシマヤプラチナデビットのポイント2%はソニー銀行に持たせているため負担が小さく、業務提携の在り方として優れている。なおかつデビットカードはクレジットカードのように貸倒がなく与信管理がいらない=低コスト。
デビットカードは引き落とし銀行口座にお金さえ入っていれば基本的にはいくらでも決済でき、エルメスやシャネル、ロレックス、カルティエなどデパートポイントが付かないブティックや路面店ではタカシマヤプラチナデビットで支払うことで2%(外商付きなら年500万円まで3%[*1]、通常版は年300万円まで)のポイントがつくため、既に“囲い込み”は始まっている。
[*1] 3%というと、GINZA SIX カード プレステージとならび、もはやGINZA SIX内も含め「どこでもタカシマヤプラチナデビット」の地ならしができている。
ただしデビットカードは分割払いができないことから、クレジットカードという借金前提の仕組みで買い物をしてきた人達にとっては使い勝手が悪いかもしれない。
※タカシマヤプラチナデビット決済で得たポイントは高島屋でしか使えないため、高島屋で買い物する予定がない人にはすすめない。
というわけで、2023年時点で総合的に高島屋がイチバン商売というか時代をわかっている気がしている。
※ヨーロッパ産の高級ブランド品に的を絞って書いたため文中で「欧州」としたが、北米の物価上昇率はもっと高いため、「欧米」と捉えてもらってかまわない。
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