1年近く前に、あるところで“エルメス攻略法”として「(客側が)名刺を出して信頼してもらう」という考え方を聞いた。
私ならすすめない。
仮に信頼されたとしても、日本企業の名刺じゃ役員クラスでないと塩対応化(?)するかもしれないから。
まず、一般消費者が個人の買い物をするのに何で名刺を出すのか。仕事じゃナイんだし。
取引先へのお中元お歳暮(にエルメス製品を使うか否かは別として)とか贈り物とかなら、確かに仕事の買い物なのでわからなくもない。「どのくらい経費を使えるか」(すなわち昭和の飲み屋的なノリ)という点で、大企業の役職者の名刺が多少なりと信用度(支払い能力含め)を高めたるに貢献したとしても、上場企業はさすがにバッグや洋服は経費にできないだろうから、エルメスにとって将来の優良顧客と見なされるかといったら違う気がする。
※何でもかんでも事業経費にできる(申告までは)のは会計監査が機能してない中小企業や個人事業主が多い。申告はできても認められるかは別の話。
エルメス客の大半を占めるだろうバーキンやケリーなどの枠バッグ目当ての買い物の場合、先に年収上限が確定するような情報を出すことに何の得があるだろうか。
大(上場)企業ほど平均年収が公表されているので、そこで足切りされないか。
という観点から、細かく数字を見ていこう。
この1-2年の、最初の枠バッグまで800万円という観察及び各デパートの外商部のヒアリングで得た相場(東京)から逆算すると、バッグ代合わせて約1,000万円使える(=イヤーズギフト対象)層でないと、俗に言う“エルメスゲーム”から途中離脱する可能性が高い。
※私の例も含め、必ずしも800万円分買わなくても出る人は出るんだが、大凡の相場としての話。
預貯金を切り崩すという捨て身(?)のケースを除き、エルメスだけで1,000万円使おうと思ったら、日本の税率と東京の物価を考慮すると、年収手取りが3,000万円以上(額面所得5,600万円)ないと厳しい。
※1ドル100円の時なら額面所得4,000万円なので、エルメスのような外資の基準は海外から見て考える必要がある。
年収2,000万円(手取り約1,307万円)でも不可能ではないが、残り月25万円で生活するのかと考えると、この層が無理に参戦すると背伸び感が出る。住まい(住所)や他の持ち物や生活水準(旅行とか食事とか)とのバランスは会話から伝わるし、そこを無視して全部エルメスに寄せたところで、多分印象がパッとせず長引き、かえって高くつんじゃないか。
※手取りと税引前所得をすぐに変換できない人は早見表の参照をオススメする。
日本の上場企業の年収ランキング(平均40才)を見てみると、
このように、1位でも2,688万円(手取り約1646万円)。バーキンレース(?)に参戦しようものなら途中で資金難に陥る可能性が極めて高い。
散々お金を使った後に引くにも引けず、買った物を売る人が多いだろうことは想像に難くなく、転売対策に躍起のエルメスにおいては負の循環に陥る。そこが前述の「高くつきそう」な理由。
最近のエルメス顧客の平均年齢を眺めた感じの印象で言うと40才前後だろうかということで、前述の年収ランキングも大凡平均年齢が40代なのでちょうど年齢層が合致しサンプルとして使える。
ということは、他に投資などで儲けていない限り単身では無理なので、必然的に世帯所得(一般的に夫婦合算)でということになる。
平均年収1位のカップル(男女同額)なら40代の頃には十分だろう。
※2人合わせて手取り年収3,000万円の場合、1人あたりに適用される税率は低いので、もう少し年収が低くても大丈夫かもしれない。
2位のカップルで、40代で何とかなるだろうか。
3位以下のカップルでは厳しい。
日本企業のサラリーマンの場合、世間が言う「パワーカップル」くらいじゃまるで足りず、2人で無理なんだから言うまでもなくエルパトの中心である女性単身(勤め人)だと全く無理。
だからエルメス客は夫婦(っぽい人)が多いんだろうと推察できる。
かつ基本は経営者層の買い物と考えて良い。
「経営者向けのバッグ」ということではなくて、必要とされる買い物額から所得を逆算すると必然的にそうなるという話。
日本の昭和のオッサンは大企業勤務であることを示す名刺の傘の下で生きてきた人が多いが、上記の通り人が知ってる(すなわち有名な)会社名の名刺を出せば、必然的に平均年収が公表されているので、途中離脱するだろうことをエルメスに予め通達するようなもの。
というわけで、名刺は何の足しにもならないどころかサラリーマンのガラスの天井(?)と化し、むしろそこで足切りされる可能性がある。
「足切り」と言うとヒドい響きだが、世間で言う「塩対応」はそういったことも含めてじゃなかろうか。
仮に800万円でバーキンが出るのが現在の相場だった場合、バーキン欲しさの客なら途中離脱するだろう所得層を相手にしてもしょうがないという合理的な理由がある。
※「800万円でバーキンが出る」は「800万円分買ったらバーキンを出す」という決定的な基準ではなく、転売客じゃないかの観察期間やバッグの準備も含めて「ちょうどそのくらいの頃に出る」と受け止める方が自然。他に待ってる人も多いし。
所得が足りないから塩対応して良い理由にはならないが、「バーキンは出ません(その可能性が極めて高い)からね」という前提で接すると、顧客側からは塩対応に見えるという構図。
下手に(勝手に)期待させたりしようものなら「騙された」と言い出す客もいそうだし、「裏切られた」とか「他の物を散々買わされた」とか言い出す客も多いだろうことから、スタッフとしてはできるだけ担当したくない。
まさしくそれこそが、いわゆるエルメス業界に浸透(蔓延?)した“担当さん”ごっこに付き合えないから、担当だと思われたくないし思われないようにするために、多くのエルパト組が求める名刺も渡さないし、思わせぶりな態度も取らないという姿勢が、ますます塩対応に見えるという循環にある気がしている。
もちろんバーキンもケリーも興味がなく、靴・服・小物類が欲しくて買い物している人達に塩対応する必要はない。客の年収させ気にする必要がない。あるものをただ買って行くだけだから「長い目」で見る必要がない。
ということから、枠バッグ(バーキン及びケリー)が欲しいと伝えた或いは臭わせた時点で、1年以上かけて年1,000万円使える客か否かが必然的な判定基準になってしまうんじゃないかということ。
言うまでもなくスーパーフリー狙いのエルパト組の話ではなく。
今の時代、上場もしてなければ下手すると法人化もしていない自営業者(Youtuberなども含め)とかの方が単独では稼いでいたりするので、大企業の「名刺の力」の時代は終わったんじゃないか、と私は思う。
いや「日本企業の名刺は」と言っておくべきか。
外資は歩合で4,000-5,000万円(40代)というケースも多々あるし、いざとなればストックオプションの行使→売却(特に外国株は円安時に売ると儲かる)で凌ぐこともできるという点で、公表されている平均年収以上に使えるお金が多かったりする。
冒頭に書いた「バーキンまで800万円」も、ドル換算すると約55,000ドル。世界各国の平均年収と照らし合わせるとそんなにトンデモな金額ではなく、何十年も給与が上がらないかつ円安の日本から見て必要以上に高く見えているところがある。
というわけで海外ブランドは常に現地および世界基準で。
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