「熊本のラーメン店「天外天」本店が閉店へ TSMCに沸く町から撤退 | 毎日新聞」

 田舎に突然好待遇(以下便宜的に「高給」と呼ぶ)の企業が誕生すると地域相場との矛盾が生じる。

 TSMCの高給に惹かれ、労働者の意識はTSMCに持っていかれる。一度その賃金を見た労働者は当然に昔に戻る気はしないため、これまでの古典的賃金職の求人には反応しなくなる。

 そこで記事のラーメン店のように人材確保が厳しくなり、同等の高賃金を支払うべく資金を作るために値上げを検討することになる。

 が、実際には地元の人が全員TSMCで働いているわけではなく、大多数の人は過去の賃金のままなので、ラーメン店の値上げについていけなくなり客場慣れが起き、撤退するしかなくなる

 という構造にある。

 一方TSMC(に限らず)は社員食堂などを充実させ内包に向かう。

 そうやって高給取りと外界の分断が進む。

 「共存」とは理想的な言葉だが、実際の社会は階級社会へと逆戻りするどころか、貴族社会にまで巻き戻されつつある。

 先進国としては信じられないほど賃金の安い日本としては、TSMCのような高給求人が救世主のように見えたりするものの、全体の賃金が上がり皆が足並み揃えて豊かになっていかないと、結局は分断されて終わりという結末を迎える。

 特にサービス業は最後の最後。皆(客)の給料が上がらないと値上げできないから。

 そもそも工場とは賃金や土地が安いから設置される(選ばれる)のであり、高給外資と元々の地元民の共存は難しい。

 いずれ「熊本の中にある別の国」状態になるだろう。それが格差思考を生み出し、ますます共存が厳しくなる。

 非常にしばしば例えるが、昔から田舎では「黒いベンツ=ヤクザ」呼ばわりする人が多々いる(いた)。が、15年程前ある取引先の女性とこの話になった際、「私の地元(小田原)では子供の頃スモークガラスのクラウン(トヨタ)でもヤクザ扱いでしたよ(笑)」と聞いたことを思い出す。

 当時東京ではMKタクシーがベンツを走らせていた。

 要は自分達から見て高い物を持っている人はヤクザという格差思考。「真っ当にそんなに稼げるはずがない」という前提の思考。

 では未だにサラリーマンの年収1,000万円が「大台」と言われる日本から見て、年収1,500万円でも低所得層とされるシリコンバレー(カリフォルニア)は全員ヤクザかというと、ほとんどがITオタク(笑)というエリア。

コロナ禍の中、シリコンバレーでも低所得層を対象として補助金などが出たのですが、ここでいう「低所得層」の基準は「年収1500万円以下」でした。

 もちろんアメリカ全体がそうなわけではなく、飽くまでも一部地域の話。

 東京湾岸地区の再開発でもそういった格差が生じた。かれこれ20数年前あたりから有明(江東区)では、古い工業団地の近くにタワーマンションが建ち並び、タワーマンションに住む側から「子供を同じ学校に通わせたくない」という親の話を数件聞いたことがある。

 子供が友達を家に呼ぶだけで自慢と思われるから。車でどこかに乗せてってあげるだけで自慢と思われるから。

 ベンツでヤクザなら、ベントレーはマフィアのボスだろうか。

 そんな調子では付き合いは難しい。

 それでタワーマンション側の住人が、隣の中央区に小さい部屋を借りてそこに住民票を移し、子供の学区を自分達の生活水準に近い側に調整するという話だった。

 豊洲くらい街全体が一気に変わればまだしも、基本的には共存は非常に難しい。

 完全に切り揃えてしまうと社会主義・共産主義化してしまう(その結果能力のある人が海外に出ていってしまう)ので、資本主義経済のままどう対応していくべきかが世界全体の課題だが、今のところ税金による富の再分配が真とされている。

 が、累進課税による富の再分配は、扶養する側・される側という本質的な格差を決定付けてしまうので、私はこれが最終的な完成形だとは思わない。

 例えば大谷翔平がホームランを打った。彼の収入が増えた。だからといってなぜ他人よりも高い税率で支払わなきゃいけないんだと問われたら私は反論できない。

 自発的な寄付はいいが、強制的に高い税率を科すのは不公平な気がする。古典的な工業時代のように、多くの労働者を低賃金で雇って利益を独り占め(?)する企業経営者とは違い、個人の能力によるものだから。最近はそういう職種の人が増えている。

 せめて同じ税率(フラットタックス)が公平じゃないか。

 そこに高い税率を科してしまうと遺伝子税と化してしまわないか。

 しかし皆同じ税率にしてしまうと納税比率から逆算すると恐らく80%の人が生活できなくなる。だから累進課税しかないという状況にある。

 「しかない」は多くの場合妥協案であって理想の形ではない。

 と言う具合に、格差の是正問題はとても難しい。

 いずれノーベル経済学賞をもらうような天才が解決してくれるだろうと丸投げしつつ、その時が来るまで格差社会の是正は困難だろうと思う。

 「まずは全体の賃上げを」と言いたいところだが、何分にも1人あたりの生産性の低い日本でそれが可能なのかという根本的な問題がある。

 昨年ドイツにGDPを越されてしまったが、人口比で言うと日本人100人よりドイツ人66人が上回るということであり、2023年時点の日本人1人あたりのGDPは34位と極めて低い。

 それが給与に直結するのは当然と言えば当然なので、何から解決すれば良いのやらという状態にある。日本は。

 東京でも、国産上場企業と高給外資とでは収入に大きな差があり、今後の日本は内外差に悩まされることになるだろう。