ウォールストリートジャーナルも取りあげるほどになったバーキンの価値。
高級バッグ「バーキン」のクレイジーな経済学 ファッション界で最も目立つ富の象徴だが、投資する価値はあるのか The Wall Street Journal
言うまでもなく“投資”にはならない。
エルメスに詳しくない人や入門段階で「投資として」と表現する人達は多い。「ブームに乗って」と言うと格好悪いから、表現上何となく格好が付く言い回しを選んでいるだけの人もいるかもしれないが。
仮に180万円で買って400万円で売れるという単純明快な式では「投資になる」と言えたとしても、年間2個だから220万円×2の売却益しか得られない。
重要なのは高々440万円のために、時間と労力と後述の“コスト”をかける価値があるのかというそもそも論と、何よりも440万円が欲しい人にエルメスは向いてない(分不相応)という古典的な現実論がある。
初期に書いた「エルメス1:1説は転売対策かもの考察」が真なら、エルメスは客(転売屋)がバーキンを転売しても利益が出ないように調整するため、初めから「投資にならない」構造(ビジネスモデル)下にある。
客は「転売してる人達がいる!私はこんなにエルメスを愛しているのに1個も買ええない!」と怒るので、エルメスは顧客満足度を高めるため、転売できないようにする必要がある。
※本来、エルメスは純愛顧客・転売屋のどちらに売っても売上・利益共に変わらないので、同じく初期に書いた「転売対策は営利に反する?」と常に照らし合わせて考える必要がある。
もし「転売対策」(顧客満足度)を重視するならば(実際にエルメスはその方向に向かっているように見える)、バーキン(枠バッグ)とその他の商品の比率すなわち「1:n」のn側の値を上げていくことになる。
仮の値として、バーキンの定価が180万円で、転売市場価格が400万円だった場合、転売屋は220万円の利益が出ることから、「1:n」の値は「180万円:220万円」よりもn側の値を高く設定すれば良い。
220万円の転売益を得るために220万円以上の他の買い物をしていたら転売屋は商売にならないから。
では、220万円分の他の買い物(靴とか服とか)も全部転売した場合どうだろうか。
ここでは新品のまま売った場合、定価の8割が回収できたとしよう(仮定)。
220万円×80%=176万円で、回収できない44万円が「バーキンを手に入れるためのコスト」ということになり、転売益220万円から44万円を引いて176万円の利益が出る。
すると転売業者は欲しくもない品でも買い漁るので、再びエルメス純愛顧客は「ツイリーさえも買えない!」「店頭に商品が全くない!」と怒りだす。
そこでエルメスは転売店(世間で言う“専門店”)やメルカリなどの転売相場をモニタリングし、それでも利益が出ないよう再度「1:n」の値を調整する(飽くまで私の推察)。シンプルなアルゴリズムであり、ここが既にAI化されているか、学習期間中ではないかと感じている。
結果、今の相場だと、
180万円:1,100万円
この値にした場合、転売業者を完全排除できる。
※バッグ以外の商品を新品のまま転売し、定価の8割が回収できるという仮定で。かつバーキンの定価を180万円、転売市場相場が400万円という設定。
1,100万円×80%=880万円なので、回収できないお金=コストは220万円となり、この状態でバーキンを手に入れて転売しても利益が0円になる。転売業者のいわゆる損益分岐点。
ピンときた人もいるかもしれない。実際、2024年現在世間で噂されているレートに近いんじゃないかろうか。「1,000万円使ったのにバッグが出ない」とか「1枠は何とか」という人達がそれなりの数いる。
だからバーキンやケリーが本当に欲しい人は、買った物を売るべきじゃない。転売を少しでも疑われるとこのレートに近づいていくことになるから。
同様に、「180万円ものバッグの出番があるの?」という風貌の人も、転売業者に雇われた買い物係を疑われる可能性がある。ロレックスマラソンの雇われランナーと同じ。
だとすれば、生活水準とバッグの価格の釣り合いがとれていないと、なかなかバッグは出ないと考えられる。
少し逸れるが、アメリカで起こされたエルメス裁判では、この転売対策が焦点となるんじゃないかという気がしている。
「抱き合わせ販売」とは、「これとあれを買ってくれたらバーキン出すよ」という手法(バンドル商法)。海外のことは詳しくないが、少なくとも日本のエルメスはそういう売り方をしていないなくて、客側が自分で選んで商品を買っている。
では日本式の「ある期間の累積購入額がnnn万円くらいになったらバーキンが出る」は抱き合わせ販売に該当しないのかと言いたくなるところだとは思うが(私は当初から「該当しない」という見立て)、これが前述の「顧客満足度を高めるための転売対策の結果」だとすれば、元々転売屋を嫌ったのは顧客側なので、しょうがないねということになる。エルメスにとっちゃどっちに売っても利益は変わらないのだから。
顧客満足度を高めるために転売屋を排除しようとした結果、1:nのn値が上がり、今度は顧客が「バーキンを買うために他の物を買わされる」と言い出したという状態。
じゃぁ、誰でも買えるよう「先着順」「抽選」にしましょうとなると、人を沢山雇ってでも申し込む転売業者の方が口数が多い分手に入れる確率が高まり(『エルメスオンラインの業者排除の考察』で書いた通り)、再び顧客は「転売業者を何とかしろ」と言い出す循環にある。
ということから、現在の1:n値の調整は合理的な手法だと言える。
エルメスのビジネスモデルは、その人気ゆえに単純じゃない。
そこに数理モデルがある(極限に達したもの全てに言える)というのが私の当初からの見立てであり、それを解き明かしてみたいというのがエルパトに参戦したきっかけでもある。
冒頭で“エルメスに詳しくない人や入門段階で「投資として」と表現する人達が多い”と書いたが、1ステップ進んだ初心者〜中堅あたりでは「資産価値」という言葉を使う人が一定数いる。
ある程度の買い物額になった時点で「無駄遣い(散財)しているんじゃない」と自分や家族を言い聞かせるための言葉かもしれないが(笑)、バッグが資産価値になるのかねと私は思う。
180万円のバッグを10個持っていたとして、(新品のまま保管しておいて)「これを全部売ったら4,000万円になる」とかそういう話なのか。バーキンを10個買うまでに他の商品にいくら使ったのかは気にしないのか(笑)。
「1億円で買ったマンションが1.5億円で売れた」とかそういう金銭感覚の人達がエルメスで買い物するものだと思うんだが。何せ世界最高峰のブランドであり、究極的に行き着く場所なはずだから。
見方を変えると、「資産」なんて言っている人は、資産を持ち歩くのか。日本人は資産を持って電車に乗るのか(笑)。
と追求していっても何の違和感も矛盾も生じない人が180万円もするバッグを消耗品として使うものじゃないか。そのうち自然な物価上昇率で「何か昔買った時より上がってる気がする」レベルでイイんじゃないか。
ということから、買って売ってを繰り返さないとお金が回らない人達には、エルメスは枠バッグは出さないだろうという見立てを維持し、行き着くところは分相応・不相応という古典的な話になるんじゃないか。というのが変わらぬ私の見解。
結論として、エルメスはお金が有り余っていて他のブランドはもういいという人が辿り着く場所であり、金銭的な収支による「投資」価値を判断するのではなく、エルメスにおける体験に価値を見いだす(そこに払うお金が惜しくない)人達のために存在するのだと私は言いたい。
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