前稿の大卒・非大卒の差に続き 昨年美容室(笑)で聞こえてきた話から、現代の東京・非東京育ちについて。
隣の席の美容師と客が途中までとても楽しそうに話していた。どちらも30才くらいの女性。
キャッキャと最高に盛り上がっているタイミングで、美容師が「ご実家はどちらなんですか」と質問し、女性客が「東京です。はずれなんですけどね、江戸川区(笑)」と返したところ、「ずっと東京なんですか?」と美容師が聞き返し、客が「はい、親の代から」と答えると、美容師は「裕福なご家庭なんですね」と言って、途端にトーンダウンした。
女性客はそのまま変わらず話し続けたが、美容師がどうにもこうにも勢いを失ってしまい、突然お腹でも壊したのでなければ、端から聞いてた限りでは東京・非東京育ちで壁を感じてしまった様子。
格差社会を強く感じた。
いわゆる「親ガチャ」的な心理か。
10年前までは、東京育ちに対し「都会育ち、いいですねー」という反応はあっても「裕福なご家庭なんですね」という反応は見聞きしたことがなかった。田舎にもお金持ちはいる。
それが立て続けにこの2年で複数回同様の会話を聞いた。発した人は皆サービス業従事者だったので、偏ったサンプルではあるが。
現代の若手にとって、東京育ちか否かはエリアが「都会か田舎か」ではなく、「裕福か貧乏か」という認知に置き換えられつつあるように見える。
そして日本も欧米のように、住むエリアと所得階級が直結しようとしている。均された混在型社会だった日本も今は昔か。
もちろんこれまでも田舎では「スゴい」と言われて育ったものの都会では全く目立たない人はゴマンといたし、大学から東京に出てきて東京の有名私大に通えば、育ちの差をイヤというほど感じ、そのコンプレックスから生活が乱れる人も山のようにいた。
それらは昔から言われ続けてきたことだが、「東京で生まれ育った」=裕福という反応は、親の所得による体験格差の激しい現代社会において、もはや生まれながらにして「勝ち組(遺伝子)」という意識がそこにある気がする。
その流れのせいか、自身の学歴について「親に感謝」と発する大卒女性が増えている印象があり、謙遜もありつつ、自分の努力の成果というよりは親の資金力と理解(方針?)のおかげ(すなわち“親ガチャ”のアタリ組)的な意味合いを感じる。
以前、シャンパン=ホスト・ホステス達の「シュワシュワ」でしかないセラピストの話を書いたが(彼女は自分で「出身が田舎なんで」と言っていた)、一方で前稿に書いた20代の大卒セラピストは東京育ちで反応もその後の会話も全く違った。
とある食べ物の話になった際、「お飲み物は何を合わせるんですか?」と聞かれたので「シャンパンですね」と答えると、「ステキ!お決まりの銘柄があるんですか?」と前のめりになった。
マリアージュに加えて銘柄を聞いてくるとは。
私がある銘柄を答えると「存じ上げず。メモしていいですか」と本当に興味があるんだなという反応を示した。
すると「私ヴーヴクリコが大好きなんです」と言うので「私も好きですよ、スタンダードの中でいちばんバランスがいいですね」と答えると「美味しいですよね!ヴーヴクリコがホントに好きで、父の影響なんですが」と返ってきた。
父の影響でヴーヴクリコ。
洒落た父(笑)。
その流れから、白ワイン、赤ワインの話になるのは自然だが、チーズタイム(フレンチのメインとデザートの間)のポートワインまで通じる上に、ついには「オレンジワインは飲まれますか?」と質問してきた。
「イスラエルとアゼルバイジャンのオレンジを何本か飲みました。タンニンが結構渋いですよね」と返すと「私、あの微妙な渋みが何気に好きです」と言うので「詳しいですね、いろいろ飲んでますね、それもお父さんの影響ですか?」と尋ねたら「はい、父がよくデパ地下でいろいろ買ってくるんです(笑)」とのこと。
デパ地下でいろいろ買ってくる父。洒落てる(笑)。
これは葉巻も好きな人かなと思い聞いてみたが、さすがに葉巻は吸わないらしいが「今度すすめてみます!ハマりそう!」と言い、私がすすめるものはあれもこれもメモしようとするので、どうやら私のセンスを信じきってるのかなという気がしたきたところ、(私の)「お上着の裏地が本当に素敵なので〜」と来た。
「父から“上着は裏地でその人がわかる”とよく聞きました」と言うから驚いた。
イギリスで言うオックスブリッジ(オックスフォード+ケンブリッジ)のノリ。
キングスマンか(まだ観てないが)。
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その昔、ある田舎育ちのミーハー社長が(ホステスうけを狙って)裏地に龍とか虎の刺繍の入ったものを選ぶという話を聞いて笑ったのを思い出す(笑)。そこの女性社員から「何とかしてもらえませんか(笑)」と相談され、テーラーに連れて行ってちゃんとしたスーツをデザインしてあげたことがある(笑)。
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で、ベランダで夜景を見ながら葉巻とコニャックを楽しむ話をすると、セラピストは「私も、あっいえ、夜景はないんですが(笑)、小さい頃から家に居るとき室内よりもベランダにいる時間が長いことで有名でした、親族の間で(笑)」と話だした。
ベランダに椅子とテーブルがあり、そこで本を読むのが好きらしい。本を読んでいると(大人になってからは)「お母さんが白ワインとチーズを持ってきてくれるんです」と続いた。
洒落てるじゃないかお母さん。
今は一人暮らしらしいが、“実家”まで10-15分くらいのところに住んでいて、頻繁に家族で食事をしているそう。
「今の住まいも実家も楽しめるような夜景はないんですが(笑)」と笑いながら話すセラピストに、何と言うか、会話全体に豊かさを感じた。現職の収入は少なそうだが、逼迫感がない。
決してお高くとまっているわけではなく、東京では「平均的な家」という認識で喋っているのが伝わってきた。「平均」の基準の高さがそこにある。全国平均ではなく東京平均。
多分田舎育ちから見たら十分にセレブに見えるんじゃないか。それどころか、これらの内容の半分も通じない気がする。
そして会話中突然「港区女子」が出てきた。
セラピストは「港区女子なんて言ってるのは田舎から出てきた子ばっかりですよね」と吐き捨てるように言うので、「いわゆるミーハーですね」と返すと、呆れ疲れたような声で「ほんとソレです」とため息をついた。
実家が港区で、わざわざ港区を出てすぐ隣の区に住んでいるらしい。
いわゆるネイティブ。
また他のサンプルとして、あるハイブランドで私を担当していた大卒・東京育ちの女性スタッフも、シャンパンのことを「飲み物の中でイチバン大好き」だと言い、オススメの銘柄や何と合わせるのがいちばん美味しいかと幾度となく聞かれた。
ある時店内で知ってる曲が流れたので「バッハ(J.S.Bach)、珍しいですね」と話しかけると、「私も最初あっ!てなりました」と言いながらすかさず曲名を口にするので(=「どこかで聴いたことがある」レベルじゃない)、「楽器でもやってたんですか?」と尋ねてみると「父がずっと車の中で流していたので(笑)」と返ってきた。
車でバッハを聴く父。
洒落た父じゃないか(笑)。
何のテーマについて話しても1回で通じてスムーズで楽。言葉の説明が他の同じ世代の人と比べて1/10くらいで済む。
とここまで読んで、大卒でも結局はただのマッサージ師じゃないか、ただのショップ店員じゃないかと思う人もいるだろう。
裏を返せば職業(名刺)という衣は表面上のもので、育ちや人となりは喋ったらすぐわかるということでもある。
サービス業従事者は多くの場合地方出身者なので、そういう人達の中に紛れていると一際目立つ。
少なくともコートとジャケットの順番がワカラナイ人達ではない。
体験格差を語る上で、続けてシャンパンの話が出てきたので誤解がないよう書いておくと、シャンパンが好きだから裕福だとか、お酒に詳しいから育ちがいいとかそういう話じゃない。
また東京育ちだから良いという話でもない。
東京の物価で家族が暮らし、必要なものをケチらずに(後述)、子供を大学にやれる親の所得が子に与えうる体験の幅の広さという観点。
私は世間話でよく食事やお酒の話をする。なぜかというと、「見栄っ張りブランド品」(外見)にはお金をかけても、お酒や食事のように他人から見えないところは真っ先に削る人が多く、この手の話をすると本質的な生活水準や育った環境が見て取れるから。
特にお酒は「無駄」「健康のため」と言って削っても誰も文句を言わないため削られやすい分、食事とお酒のマリアージュを楽しんでいる家族とは、全体的に見て余裕がある。少なくともカツカツではない。
例えば、フェラーリに乗って彼女とレストランに行き、バレーサービスで格好良く降り立ったはいいものの、レストランでは「運転だからお酒は飲めない」とケチる男がいる(笑)。女性はタクシーでいいからシャンパンくらい飲みたいんじゃないか(笑)。
という具合に、外から見えている表面上の豊かさと、実質的な生活の豊かさはまた違う。
同様に、職業は表面上のもので、育ちは少し話せばすぐにわかる。
東京で住所がモノを言うのは都心3区(中央・千代田・港)、または都心5区(3区に加えて新宿・渋谷)くらいかと思っていたが、それは高級品市場での話であり、庶民の会話においては「東京で生まれ育った」=裕福という段階まで来ているっぽい。
冒頭に書いた女性の「はずれなんですけどね、江戸川区(笑)」はその辺も含めてのニュアンスだと私は受け止めたが、東京の外から見たら「東京」で一括りなんだろう。
「カースト」という言葉があちこちで使われてみたり、何年前だったか「ヒエラルキー」という言葉が流行ったり、この数年の「親ガチャ」も含め、日本も階級社会化してるんだなとつくづく思う今日この頃。
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